災害が発生してしまうと、物資やインフラが整うまでに時間がかかります。
DPATの職員が持参できる物品も限られている。
結論
- 避難所での感染対策を確認し、状況に応じて柔軟に変更する。
- 避難所で感染症を早期に発見する技術・知識を身につける。
避難所でどのような感染対策ができるのか
・移住区域の調整・環境整備
・体調管理
・手指衛生
・トイレの工夫
・食品管理
移住区域の調整・環境整備
・可能であれば、個人間・家族間の距離を2m保つ
・距離が保てない場合は、パーテーション・ダンボールの活用
・定期的に窓を開けて換気を行う(例 午前・午後、3時間毎など)
避難所の広さにより可能な範囲で検討する。
・発熱・呼吸器症状・嘔吐・下痢症などが発生した場合、個別に収容する場所の確保が望ましい。
・内履き、外履きを区別し、生活区域に土足で入らない
・トイレを定期的に清掃、次亜塩素酸ナトリウムやハイターなどを用いて消毒を行う。
・トイレ清掃後は、手袋を単回使用とし、流水と石鹸での手洗いを行う。
・おむつは専用の容器に廃棄し、手指衛生を励行する。
災害時のトイレの工夫などの資料
手指衛生
- 手指衛生を全ての職員、ボランティア、避難者が励行する
- アルコール手指消毒剤・流水と石鹸での手洗いを励行する
- 手を拭く際は、共有のタオルを使用しない
- 定期的に手指衛生励行を啓発する
食品管理
- 調理が必要なのものは十分に加熱する
- 発熱・嘔吐・下痢症状のある人は、調理や盛り付けを行わない
- 調理時は、手指消毒、使い捨ての手袋を活用する
- 食器は、水道水が出ない場合は使い捨てにする
- 給水車の水については、煮沸後使用が望ましい
- 乳児の哺乳瓶などは、ミルトン(次亜塩素酸ナトリウム)もしくは、熱湯で消毒を行う。
災害時の感染症早期発見
症候群において感染症を検討する
- 急性胃腸炎症候群:ノロウイルス、ロタウイルス、黄色ブドウ球菌食中毒、カンピロバクター腸炎、ビブリオ腸炎、EHEC O157
- 急性呼吸器症候群:COVID19 、インフルエンザウイルス、レジオネラ肺炎
- 急性発疹・粘膜・出血症候群:麻疹、風疹、咽頭結膜熱、A群溶連菌、手足口病、流行性角結膜炎、ツツガムシ病
- 急性神経・筋症候群:破傷風、髄膜炎
- 皮膚・軟部組織感染症:ガス壊疽、ビブリオ・バルニフィカス感染症、疥癬
- 急性黄疸症候群:肝炎、レプトスピラ
- 死亡群
症状から感染症を考えてみる
- 急性上気道炎:鼻汁、咽頭痛、咳嗽、頭痛、倦怠感など
- COVID19:発熱、咳嗽、頭痛、倦怠感、味覚障害、嗅覚障害など
- インフルエンザ:発熱、鼻汁、咽頭痛、咳嗽、頭痛、倦怠感
- 肺炎:咳嗽、膿性喀痰、呼吸困難、チアノーゼ
- 結核:咳嗽、喀痰、倦怠感、血痰
- 感染性胃腸炎:嘔吐・下痢・腹痛・発熱
- 食中毒:集団での嘔吐・下痢・腹痛・血便など
同じ症状の人がいないか?早期発見・対応するには
避難所の症候群サーベイランス例
- 熱(37.5℃以上)
- 咳・鼻汁・咽頭痛などがある
- 全身倦怠感、悪寒、頭痛、関節痛、筋肉痛
- 咳に血が混ざっている
- 身体に発疹がある
- 嘔吐・下痢症状がある
- 血便がある
- 皮膚の傷から排膿、腫脹、発赤、痛みがある
感染症を見つける方法
敗血症の定義:感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされた状態
・バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸数・Spo2)
1 体温(成人):正常値 36から37℃
1)稽留熱:日内変動が1℃以内の高熱(通常38℃以上)持続する熱型
・主な疾患:重症肺炎・粟粒結核・細菌性髄膜炎など
2)弛張熱:日内変動が1℃以上で37℃以下まで下がらない熱型
・主な疾患:敗血症・ウイルス感染・悪性腫瘍
3)間欠熱:日内変動が1℃以上で37℃以下になる時期を有する熱型
・主な疾患:スティル病・マラリア
2 脈拍数(成人):正常値 60から90回/分
□ 数 □ リズム □強さ □左右差
脈拍数(成人)
・60以下 徐脈
・100以上 頻脈
3 血圧(成人): 正常値 収縮期血圧 130以下 拡張期血圧 80以下
4 呼吸数(成人):正常値 12から20回/分
5 意識レベル(GCS):Glasgow Coma Scale
開眼機能(E) | 言語機能(V) | 最良運動機能(M) |
自発的に開眼:4 | 正常な応答:5 | 命令に従う:6 |
呼びかけに開眼:3 | 混乱した会話:4 | 疼痛刺激を払いのける:5 |
疼痛刺激に開眼:2 | 不適当な言語:3 | 疼痛刺激に四肢屈曲・逃避反応:4 |
開眼しない:1 | 理解不明の声:2 | 疼痛刺激に四肢屈曲・異常反応:3 |
発語なし:1 | 疼痛刺激反応に対する四肢伸展運動:2 | |
全く動かない:1 |
・13から15を軽症
・9から12を中等症
・8以下 重症
敗血症を疑ったら、q SOFAを行なってみる!
□ 呼吸数が22回以上
□ 収縮期血圧が100mmhg以下
□ 意識レベル低下(GCS15点以下)
2項目あれば敗血症を疑う。
・発熱 38.8℃ 悪寒あり
・体温 38.8℃ 脈拍110回/分 血圧88/45mmhg 呼吸数26回/分
・抹消皮膚冷たい、Spo2 92%
・意識レベル(GCS)
開眼(E):呼びかけに対して目を開ける
言語機能(V):会話が混乱している
運動反応(M):痛み刺激から逃避する
さて、q SOFAは何項目当てはまりますか?
2項目以上であれば敗血症を疑いましょう。
災害時のDPAT隊員の感染リスク
・活動中は、不織布マスクを着用する
・食事・休憩は時間差で摂取(対面を避ける)
・活動中はアルコール消毒剤を携帯し手指消毒
・COVID19流行によりPPEを検討する
・フェイスシールド・N95マスクの検討
・面会・面接時は双方に不織布マスクを着用
・避難所で使用する上履きを持参する(ビニール袋持参)
・使用したPPE等の廃棄は、支援場所に従う
・本部は2方向に換気のできる場所に設置
・密とならない人員配置
・本部出入り口にアルコール消毒剤設置
・物品の整理整頓
・よく触れる場所・共有する物品の環境消毒
・Covid19・インフルエンザ・麻疹・風疹等のワクチン接種
・手指消毒のトレーニング
・手袋・不織布マスク・N95マスク・ディスポエプロン着脱トレーニング
・毎日の健康調査(検温・症状)
まとめ
- 災害発生前の感染対策準備(情報収集・持ち込み防止)
- 災害発生後の対策(感染症集団発生予防・被災者個人の感染症を早期に発見する)
- DPAT隊員の感染対策(隊員が罹患しない・標準予防策・感染経路別予防策の訓練)
災害時に持参できる物品は限られています。
被災地では、感染症を判定できる検査物品もないことが多いと思います。
避難所でも感染症を見つけるヒントになるq SOFAスコアは活用できます。
早期に見つけて、医療機関に早期対応できるよう命のバトンをつなげていければ良いですね。