はじめに
障害者福祉施設では、利用者の特殊なニーズに合わせた感染対策が不可欠です。
この記事では、その課題と解決策を探り、Covid-19を含む感染症に対する具体的な対策を紹介します。
障害者福祉施設の現場で直面する特有の問題と、それに対応するための効果的な戦略を掘り下げます。
結論
•障害のある人の特性を理解し、施設の特性に合ったオーダーメイドの感染対策支援が必要である。
・自施設を分析して、自施設の感染対策を構築する
・日頃より、アクションカードを用いた発生シュミレーション訓練を行う
・クラスターや感染症の発生を振り返る
・重症例・死亡例を出さない視点を持つ
感染症情報サイト・本の紹介
厚生労働省感染対策マニュアル・業務継続ガイドライン等https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15758.html
感染対策の参考になる本の紹介
障害者福祉施設の特徴
障害者福祉施設では、集団活動が多く、マスクの着用や手洗いが困難な場合があります。
共有物品や場所の多さも感染リスクを高め、感染症の症状を伝えるのが難しいことがあります。
これらの特殊性を理解し、対策を講じることが重要です
障害者福祉サービスが受けられる障害の種類
障害福祉サービスは、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害など様々な障害の種類に対応しています。それぞれの障害に応じて、感染対策のアプローチも異なります。
1 身体障害
2 知的障害
重症心身障害児(者)
咀嚼・嚥下、排泄、呼吸機能障害、骨格異常など合併症や二次障害
誤嚥性肺炎・尿路感染・呼吸器関連肺炎・イレウス・褥瘡(皮膚感染症)
区分 | 知能指数 (IQ) |
最重度知的障害 (Ⅰ) | 20以下 |
重度知的障害 (Ⅱ) | 21~35 |
中度知的障害 (Ⅲ) | 36~50 |
軽度知的障害 (Ⅳ) | 51~70 |
3 精神障害
4 発達障害
利用者の特性(自施設の状況を知る)
•年齢は、若年層から高齢者の割合は?
10代・20代・30代・40代・50代・60代・70代
•活動状況:ベッド上から車椅子、自力歩行の割合は?
ベッド上 % 車椅子 % 自力歩行 %
•身体合併症:心疾患、腎臓疾患、糖尿病、高血圧、誤嚥
利用者の方の特徴を理解し対策を立てる。
職員の特性(自施設の状況を知る)
•男女比 (共有スペースの トイレ 更衣室)
•年齢 (子育て世代・介護世代・65歳以上の職員数)
•職種 (利用者に接触距離が近い職種)
•情報共有と役割分担の明確化
構造の特性
•利用者共有スペースの洗い出しを行う
食堂、共有トイレ(数)
洗面所、浴室、送迎バス・車
•共有物品の洗い出し
レクレーション物品
業務作業用物品、日用品
•利用者の動線
•職員の動線
5類以降後のCovid19感染対策
Covid19 5類以降の感染対策変更点
5類感染症移行後 | |
発生動向 | ・定点医療機関からの報告に基づき、毎週月曜から日曜までの患者数公表 |
医療体制 | ・幅広い医療機関による自律的な通常の対応 ・新たな医療機関に参画を促す。 |
患者対応 | ・政府→一律に外出自粛要請はせず ・医療費の1から3割を自己負担 入院医療費や治療費の費用期限を区切り軽減 |
感染対策 | ・個人や事業主に判断を委ねる。 ・基本的対処方針などは、廃止 |
ワクチン | ・令和5年度においても、引き続き、自己負担なく接種 ・高齢者など重症化リスクが高い方等 |
感染対策の問題点
•把握できないCovid19感染症者が増加する。
•日常的に陽性者と接触するリスクが高くなる
•施設内にCovid19陽性者が入り込む数が増える
•初発例発見時には、2日後クラスターになる可能性が高い
どのような感染対策が必要なのか
通常の標準予防策(手指衛生・個人防護具の着脱技術)の実践
症状のモニタリングを行い、早期に発見し対策する
重症化しやすい利用者の把握と発症時の取り決め(BCP)の情報共有
感染対策マップを作ろう
・手が洗える場所
・手の消毒ができる場所
・手袋・デイスポエプロンが設置してある場所
・手袋・マスク・ディスポエプロンが廃棄できる場所
構造の図面をもとに、職員が感染対策を行える場所を共有する。
Covid19陽性利用者が発生した時の問題点
職員の手袋・フェイスシールド・マスクの保管問題(汚染しやすい)
保管している場所は、最も職員がて触れる回数が多い場所の1つです。
整理整頓し、清掃しやすい環境を整えましょう。
物品が多いと個人防護具が汚染しやすい理由
聴覚障害がある方への感染対策の工夫
利用者さんが座る視点に感染対策の協力を得る工夫(例)
職員動線を共有するアイデア
(マニュアルを視覚化する工夫)
発生したらこの写真に個人防護具を設置する工夫
(文章では、伝わらない場合)
職員教育が間に合わない場合や、職員の理解が困難な場合
Covid19疑れいが発生した場合の問題点
共有スペースの問題
・共有トイレ
・共有洗面所
・食堂・ホール
共同で作業するスペースや作業療法などを行う場所の感染対策
Covid19 第10波の準備と戦略
BCP=業務継続計画 (自施設分析・課題を抽出)
以下項目をチェックし、施設の感染対策の弱い項目を見つけて対策を検討しましょう。
1.体制整備
🔲 施設の感染対策の課題を明確にする(問題点の共有と解決)
🔲 第10波の感染対策と計画を立てる
🔲 利用者と職員の健康状態把握
🔲 感染発生時・拡大時の対応(夜間・休日時の対応)
2.役割分担
🔲 施設長(管理者): 施設全体の管理
🔲 事務担当:院内・外担当窓口
🔲 医師:医療・治療の提供(不在施設の場合連携状況)
🔲 看護職員:感染対策の計画・指導、利用者・職員の管理
🔲 保育士・指導員:感染対策計画共有・実施状況確認
3.感染対策研修と訓練
🔲 日時の取り決め(第10波流行前・後)
🔲 対象:全職員(感染対策協力が得られる利用者)
🔲 感染対策教育と訓練:感染症発生時の行動確認
(実際に動けるか? 評価する)
4.利用者の健康管理
🔲 利用者の既往歴(心疾患、癌、糖尿病、腎臓疾患、高血圧)
🔲 利用者の体調を把握、体温、脈拍数、血圧、酸素飽和度、呼吸数
🔲 利用者の体調が悪い場合の様子を共有する方法を構築
🔲 利用者に対し、手の消毒やマスク着用を教育、指導する
🔲 利用者の感染対策実施状況を把握し、不足している部分を支援
4-1重症化しやすい利用者を把握しておく
4-2 まずはバイタルサインを考える
バイタルサインとは何を見つけるの?
血圧・脈拍・呼吸・体温・酸素飽和度・意識レベル・尿量
5.利用者の体調観察ポイント
5-1 利用者の感染状況の確認
•患者さんは、症状を表出できるのか?
•できない場合、まずバイタルサイン測定・意識レベルの観察
•qSOFAの測定(簡易的敗血症測定に活用)
🔲収縮期血圧100mmhg以下🔲呼吸数22回以上🔲意識レベル低下
•2つ以上で感染症を疑ってください。
6.職員の健康管理
🔲 感染症の既往やワクチン接種状況を把握
🔲 職員の体調把握
🔲 体調不良時の報告しやすい環境を整える
🔲 職員への感染対策の方法、教育、指導を行う
🔲 業務中に感染した場合の方針を明確にし、対応を準備
🔲 職員の出勤率により柔軟に業務内容を変更(出勤率30%、50%等)
7標準的な感染予防策(平時から取り組む)
🔲 利用者に接触する前、接触後に手の消毒が実施できているか
🔲 手袋を脱いだ後に手の消毒を実施しているか
🔲 食事支援前後に手の消毒が実施しているか
🔲 排泄支援前後で手の消毒が実施しているか
🔲 医療処置時前後で手の消毒を実施しているか
7-1 障害者施設独自の手の消毒が必要な場面がある
8.利用者の感染予防策
🔲 食事前、排泄後の手洗い状況を確認する
🔲 手指を清潔に保つために必要な支援を検討する
🔲 共有物品の使用状況把握し、清潔に管理する
9.感染対策の環境清掃
🔲 整理整頓、清掃を計画的に実施し、実施状況を評価する。
🔲 換気の状況(方法や時間)を把握し、評価する
🔲 トイレの清掃、消毒を計画的に実施し、実施状況を評価
🔲 複数の職員や利用者が触れる場所の把握と清掃
10.食品衛生
🔲 食品の入手、保管状況を確認・評価
🔲 調理工程の衛生状況を確認・評価
🔲 調理職員の衛生状況を確認する
🔲 課題を検討し、対策を講じる
11.感染症発生時の対応(発生状況把握)
🔲 感染者及び感染症疑い者の状況を把握し、情報を共有する
🔲 施設全体の感染者及び感染疑い者の発生状況を調査し把握する
12.感染拡大の防止
🔲 医療関係職は、感染者、疑い例の対応方法を理解し行動できる
🔲 支援職員は、感染者、疑い例の対応方法を理解し行動できる
🔲 感染者、疑い例と接触した関係者の体調確認を行う
🔲 ウイルスや細菌に効果的な消毒を選定し、消毒を実施する
🔲 職員の感染対策状況を確認、感染対策を促す
13.医療機関や保健所、行政関係機関との連携
🔲 感染者及び感染疑い者の状況を報告し、対応を確認する
🔲 診療の協力を依頼する
🔲 医療機関、保健所からの指示内容を施設、事業所内で共有する
14.関係者への連絡
🔲 施設、法人内での情報共有を構築、整備する
🔲 利用者家族や保護者との情報共有体制を構築、整備
🔲 相談支援事業所との情報共有を構築、整備する
🔲 出入りする業者との情報共有体制を構築、整備する
15 入所・入居系
🔲 面会時の対応方法について確認できている
🔲 帰宅希望時の対応を確認できている
🔲 感染者、それ以外の方の支援を分けた対応を検討できている
🔲 検査を受けられる体制を整えている
🔲 医療機関を受診する体制を整えている
🔲 シフトを調整し、職員の支援体制を構築する
16 通所系
🔲 体調の確認方法と体調不良の対応方法について、家族及び相談支援専門員などと事前調整する
🔲 施設利用中の体調不良者の対応方法を構築する
🔲 休業基準を明確にする
17 訪問系
🔲 体調不良時の対応方法について、家族及び相談支援専門員などと事前調整する。
🔲 自宅療養できない利用者の滞在先を検討する。
🔲 職員が不足した場合の支援体制を構築する。
複数の感染症の同時流行に備える
インフルエンザウイルス感染対策
•ワクチン接種から効果が現れるまで約2週間、約5ケ月継続
•利用者・職員のワクチン接種率(未実施者)を把握しておく
•症状がCovid19とほぼ同じ(発熱・咽頭痛・頭痛・咳)
•発症から数時間では、検査陽性にならない場合もある
•職員の健康調査(症状がある場合は勤務を検討)
•職員・利用者双方に不織布マスク着用(飛沫予防)
•陽性利用者(個室が望ましい、大部屋であれば1.5m離す)
•就業制限(学校保険安全法規則第19条)
•発症後5日、もしくは解熱後2日
感染性胃腸炎
•アルコール消毒剤が効きいくい
(手指消毒剤、環境アルコールクロス)
•流水と液体石鹸での手洗いを必ず実施できる体制・教育
•感染経路は接触感染が中心(接触部位、共通物品の消毒)
•嘔吐・下痢症状の対応準備(トイレで嘔吐した場合や、食堂で下痢など)
•経口感染(食事、水分、薬、おやつ)
•複数名で役割分担できるよう準備する。
•夜間や休日で職員が少ない状況での発生を想定しておく
•吐物や下痢発生時の物品・消毒薬セットを準備しておく
疥癬
通常疥癬 | 角化型疥癬 | |
ヒゼンダニの数 患者の免疫 | 数十匹 正常 | 100万から200万 弱い |
潜伏期間 | 1から2ケ月 | 4から5日 |
感染力 | 弱い | 極めて強い |
主な症状 | 赤いぶつぶつ(発疹、丘疹、結節) 疥癬トンネル | 厚い垢が増えた状態、多量の落屑など |
痒み | 強い | 不定 |
症状が出る部位 | 全身 | 全身 |
隔離 感染対策 | 可能であれば個室 標準予防策 | 原則個室 接触予防策、複数の場合は集団隔離 |
まとめ
障害者福祉施設では、感染症の発生を振り返り、重症例や死亡例を出さないための視点が重要です。常に自施設を分析し、感染対策を構築することが大切です。
こんにちは、Springです。
障害者福祉施設の感染対策は重要です。
その施設にあった、オーダーメイドの感染対策が必要になります。
現場にラウンドし、実際の問題点を共有して、定期的なフォロー
を行うことが第10波までにできることかと思います。
まずは、問題点を共有することから始めてみましょう!