はじめに
認知症の患者さんは、どこの医療機関や施設でも増加しています。
日本人の高齢化が進むにつれて、増加していますね。
今後は、在宅でも増加すると思います。
認知症を知ることで、感染症から患者さんを守ることができるかもしれません。
この記事では、認知症患者さんの感染対策を個別や集団の観点から述べてみたいと思います。
結論
- 認知症の病態や症状、経過を学ぶ。
- 代表的認知症の病気を把握し、間者さん個別に感染対策を組み立てる。
- 認知症患者さんの集団特性を理解し、集団での感染対策を実施する。
認知症病棟では、以下のような問題点が発生してきます。
認知症の病態・症状・経過をもう一度振り返り、アップデートしたいと思います。
認知症とは
- 正常に発達した記憶・学習・判断・計画などの認知機能が後転的な脳の器質障害によって持続的に低下、社会生活に支障をきたす。
- 明かな記憶障害がある
- 失語・失行・失認・遂行機能障害がある
- 生活に支障がある
認知症の原因
- 高齢者に起こる、加齢による脳の病的な老化
- 脳実質の変性で起こる
- 変性性認知症(アルツハイマー型・Lewy小体・前頭側頭型)
- 血管性認知症(脳梗塞や脳内出血によって起こる)
認知症発症からの経過(例アルツハイマー型認知症)
症状(中核症状とBPSD)
脳の障害により、直接起こる症状である。
記憶障害:記名・保持・想起(新しいことを記憶できない)
見当識障害:時間・場所・人物・周囲の状況ができなくなる
失語:脳の損傷で、読む・書く・話す・聞くなど言語機能が失われた状態
失行:意思はあるけど正しい動作ができない
失認:視覚・聴覚・味覚等の異常がないが、対象を認知できない
遂行障害:計画して実行できなくなる(例:炊事・掃除・洗濯等)
BPSD:behavioral and psychological symptoms dementia
行動・心理症状は、中核症状に付随して起こる2次的な症状
不眠・徘徊・幻覚・妄想などがある
うつ状態・不安・焦燥・興奮・暴力・不潔行為・異食・過食・依存
認知症とせん妄の違い
認知症 | せん妄 | |
基本症状 | ・記憶・認知機能障害 | ・注意・意識障害、幻視 |
身体疾患 | ・あり | ・多い |
発症様式 | ・ゆっくり | ・急激 |
持続時間 | ・永続的 | ・数日から数週間 |
日内変動 | ・ない | ・ある |
睡眠障害 | ・まれ | ・あり |
環境の影響 | ・ない | ・多い |
MCI:軽度認知障害
- 認知症までは至らないが、年齢よりも記憶・認知機能が低下
- 本人や家族からの認知機能の低下の訴えがある
- 認知機能が正常ではないが、診断基準に満たない
- 日常生活機能は正常
アルツハイマー型認知症
- 発症:老年期(若年発症もある)
- 物忘れ(記憶障害)、物盗られ妄想、見当識障害、判断能力障害、失行、失認、失語、遂行機能障害がある。
- 頭部CT、MRI検査にて、側頭葉内側面(海馬)の大脳皮質萎縮、脳溝や脳室拡大
- SPECT、PETにて頭頂葉や側頭葉の血流低下
経過
・脳の萎縮は、徐々に進行し、記憶障害を主とした中核症状が出現
・BPSDも出現する。
いつどこで何をしたという体験の一連した記憶が欠落する。
体験自体を忘れ、欠落した記憶を取り補うために、盗られたとうゆう作話(Korsakoff症候群)によって起こる。
大脳皮質の萎縮 → 認知機能の低下
海馬の萎縮 → 記憶力の低下
頭頂葉の血流低下 → 感覚・統合の認知機能低下
側頭葉の血流低下 → 記憶・聴覚・言語
この患者さんは、アルツハイマー型認知症を発症して何年目なのか
軽度から重度までのどの経過に当たるのか
身体疾患への影響は、今どの時点なのか
認知機能は、今どの時点なのか
今後、時間経過とともにどのような問題が出てくるのかアセスメントする。
患者さん個別の感染対策の問題点が見つけやすい(認知行動・身体所見)
Lewy 小体型認知症
DLB(dementia with Lewy bodies)
老年期に発症
進行性の認知機能障害と幻視(繰り返す)など特有の精神症状
パーキンソニズム、神経変性疾患、睡眠行動障害
SPECT、PETにて後頭葉(一時的視野機能)の血流低下
パーキンソン病とLewy小体認知症の違い
・パーキンソン病では、脳幹に限局してlewy小体が出現
・Lewy小体認知症は、大脳皮質などの中枢神経に広範囲にlewy小体が出現
Lewy 小体とは
・神経細胞内に出現する円形の細胞質封入体
・リン酸化α シヌクレイン凝集物を主成分
・大脳皮質など中枢神経に広汎に分布
代表的な視覚障害
・幻視 (人・虫・小動物が多い)
REM睡眠行動障害
初期に出現することが多い
症状:四肢・体幹の運動、大声を上げる、身体を周囲環境にぶつけるなど
認知機能の変化
数分から数日間の日内変動や、数週間から数ヶ月に及ぶ変動がある。
Lewy 小体認知症の間者さんは・・・
幻視など視野障害が出やすい。
認知機能が日・月単位で変化するので、説明が困難である。(感染対策の協力は得られないことが多い)
大声を上げる場合もあるため、飛沫が飛びやすい
前頭側頭型認知症
・特徴的な人格変化、行動異常が見られる。
・進行すると、前頭葉・側頭葉に限局した萎縮性病変を認める。
・発症:初老期 40歳から60歳
・病識は欠如している。
初期 | 中期 | 後期 | |
感情 | 自発性の低下・感情鈍麻・病識欠如 | 常同行動(同じ場所を周遊する) 同じ椅子に座る。 | 無言 |
症状 | 脱抑制、常同行動(人格変化・行動異常) | 何を聞かれても、同じ内容で返答する。おうむ返しなど | 無動 |
側頭葉:記憶・聴覚・言語
の機能が低下していく。
この患者さんは、発症からどの段階なのかアセスメントしてみる。
初期から中期は、活動性があるため間者から間者への伝播に注意する。
感染症に罹患しても、症状を伝えることが困難である。
血管性認知症
・脳血管障害(脳梗塞・くも膜下出血)によって生じる認知症
・全認知症の20から30%をしめる。
・脳卒中発症・発作に伴い発症したり、新しい梗塞が加わることで段階的に悪化する。
・障害部位により局所の神経症状が発生する。
- 好発:脳血管障害、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、心房細動、喫煙
- 抑うつ:自発生の低下 遂行機能障害、夜間せん妄、情動失禁、頻尿、尿失禁
- 認知機能がまだら上に低下
- 運動麻痺、感覚麻痺、嚥下障害
- 脳血管性パーキンソンニズムによる小刻み歩行(局所神経症状)
原因分析
- 多発生脳梗塞(大・中血管の閉塞による多発生梗塞)
- 小血管病変型(広範囲な小血管病変による梗塞)ラクナ梗塞など
- 局在病変型(海馬と認知に関わる重要な部位の単発梗塞)
- 脳内出血やくも膜下出血
経過
・血管性認知症では、梗塞が起きるたびに認知機能が段階的に悪化することが多い。
認知症病棟内での4つの認知症割合は?
自施設の認知症病棟での4つの認知症をベッドマップでマッピングし、カラーリング区分けを行う。
アルツハイマー型認知症患者さんやLwey小体認知症の病状段階を把握し感染対策を実施する。
認知症病棟をSOWT分析してみましょう!
感染経路の分析については、過去記事を参考にしてください。
認知症病棟の感染対策の考え方
まとめ
- 認知症を理解しなければ、感染対策を構築することは困難
- 認知症の患者さん個別状況を理解し、短期・中期・長期で感染対策を準備する
- 個別の状況が分析できれば、集団での感染対策に応用できる。
認知症疾患を理解し、経過を把握することはとても大切なことですね。
目の前の認知症患者さんにどのような感染対策を提供できるか
集団の感染対策と個別の感染対策を同時に行える技術を、進めていきたいです。