こんな場面で困っていませんか?
発熱があった患者さん、喀痰培養検査を実施。
結果、薬剤耐性菌が検出されてます。
と・・・・検査室から連絡が入る。
ベテラン看護師さんが「ES BL何とかが患者さんから出たのよ」
最近、横文字が多くて覚えられないわよ!
でも患者さん
マスクを外し、歌いながら歩いている。
手の消毒もできないから。
耐性菌広げやすいわね。
発熱は、落ち着いていて主治医からは保菌対応でお願いしますと指示がある。
どのように対策をすれば良いのかわからない。
感染対策は、標準予防策と接触予防策とマニュアルにあったけど・・
いつまでやればいいのだろう。
と悩んでいるあなた
この記事を読めば感染対策のヒントになる。
結論
- 精神科施設での薬剤耐性菌患者増加が問題である
- 薬剤耐性菌患者を増やさない対策が必要
- 精神科施設でも抗菌薬適正使用の対策を実施する
抗菌薬耐性:AMR (antimicrobial resistance)
世界規模の公衆衛生上の問題となっている
なぜ?精神科施設でも薬剤耐性菌対策が必要なのか
理由として
- 耐性菌患者が多ければ経験的な抗菌薬治療に反応する可能性が低下する
- 患者さんの在院日数が長い
- 痰・唾液・鼻汁・尿・便から検出した場合、環境が汚染されやすい
- 耐性菌を排出する口・鼻(マスクを着用できない)をブロックできない
- 異食患者さんが入院している場合、手の消毒や手洗い石鹸が設置できない
- 患者同士が密接に接触する機会が多い
- 保菌状態の患者を感染対策上どの期間隔離するのか明確な決まりがない
では、薬剤耐性菌はどのように出現し拡散しているのか
- 人への使用
- 家畜や魚の養殖
- 農業
- 抗菌薬使用、処方時の知識不足
- 海外など処方なしで購入可能な抗菌薬
- 海外旅行、都会での人口密集
- 医療施設での感染対策が困難(精神科施設・重度知的障害者施設等)
- 検査体制の不足
もっと詳しく知りたい方は以下厚生労働省AMR(薬剤耐性)対策を参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html
薬剤耐性菌について簡単に説明
精神科でよく見かける多剤耐性菌
多剤耐性菌
接触感染にて伝播していく
MDRO:multidrug organisms
🔵🔵🔵 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
MRSA:methicillin resistant Staphylococcus aureus
精神科では、血流感染症、院内肺炎、皮膚軟部感染に注意する。
拘束帯などで皮膚損傷した上肢・下肢・胴拘束のリネン類にも付着しやすい
□□基質拡張型βラクタム分解酵素産生菌
ESBL:extended spectrum β lactamase
ペニシリンや広域セファロスポリンを分解する酵素を持つ
大腸菌(E.coli) 肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae) など腸内細菌科細菌
おむつ交換時、便を手につけて壁やベッド周囲に触っている場合など
病室環境も汚染する。
街中でも増加傾向
□□多剤耐性緑膿菌
MDRP:Multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa
緑膿菌は水回りなどの環境に分布している。
薬剤耐性を獲得しやすい
広域βラクタム抗菌薬、アミノグリコシド、フルオキノロン抗菌薬に耐性
🔵🔵バンコマイシン耐性腸球菌
VRE:vancomycin resistant enterococcus
腸管に生息するグラム陽性球菌
バンコマイシンに耐性
抗菌薬耐性の種類
1 自然耐性:細菌の性質と抗菌薬作用機序
例:腸球菌は初めからセファロスポリンに耐性
2 獲得耐性:染色体の変異やプラスミドの移送で起こる
プラスミドとはなんですか・・
染色体の外にある細菌のDNA一部、抗菌薬耐性に関する遺伝子情報を移送
プラスミドは、ある細菌から別の細菌へ接合より移送(グラム陰性菌が主)
形質導入:DNAがウイルスベクターや細菌に感染するウイルスにより別の細胞に移送
形質転換:ある細胞が破壊されて生じた外因性遺伝DNA物質が、他の細胞に細胞膜を通じて取り組まれ、組み込まれる。
精神科でもできる抗菌薬適正使用
- 感染症や敗血症症状・徴候があり、適応がある場合
- 処方前に薬剤アレルギーがないか確認
- 処方前に必ず微生物検査を実施する(検体培養検査)
- 処方の理由を明確に記録する
- 重症の敗血症や、致命的な感染症の場合(壊死性筋膜炎等)時有効な抗菌薬治療が開始されたことを確認
- 72時間以内に抗菌薬を再評価する
- 微生物検査(感受性試験)結果を確認し最適な治療へ変更
例:発熱がある患者
精神科でも活用できる発熱の大まかな分類特定を考え方
1 感染症の発熱なのか?
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2 非感染症(感染症以外)の発熱なのか?
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3 腫瘍(リンパ腫・白血病・肝臓腫瘍)による発熱なのか?
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4 その他を考えてみる。
- 肺塞栓症(拘束帯は着用しているか、Dダイマー値は正常か)
- 薬剤熱(薬剤アレルギーはないか)
- 擬痛風(膝関節など腫れ・あかみ熱感はないか)
- 膵炎
- 悪性症候群
どの臓器で感染が発生しているの?
どの部位(臓器)の感染症なのだろうと考える。
以下記事を参考に
- 病歴を聞ければ聞く、フィジカルアセスメントを行う
- 頭部、眼、副鼻腔、口腔内、上気道、肺、心血管、胆嚢、腹部、腎盂、前立腺
- 肛門周囲、皮膚(褥瘡・蜂窩織炎等)、関節、表在リンパ節
- 末梢静脈カテーテル、尿道留置カテーテル、経管栄養チューブ、ドレーン周囲
身体の情報を取りながら、どの部位、臓器の病気があるのか
考えてみましょう!
中枢神経:髄膜炎 脳炎 脳腫瘍
耳:中耳炎 外耳道炎
副鼻腔:副鼻腔炎
上気道:咽頭扁桃炎 口頭扁桃炎
下気道:気管支炎 肺炎 肺腫瘍 膿胸 胸膜炎
食道:食道炎
心臓・血管系:心内膜炎 心筋炎 血管内感染症
腹部:胆嚢炎 胆管炎 虫垂炎 憩室炎 腹膜炎 腸炎
泌尿器:腎盂腎炎 膀胱炎 前立腺炎 尿道炎 精巣上体炎
婦人科:卵管炎 子宮頸管炎 膣炎
皮膚:蜂窩織炎 せつ よう 褥瘡
リンパ系:リンパ節炎
なぜ抗菌薬開始前に検査が必要なのか?
検査を行わずに抗菌薬を投与すると
発熱の原因となった細菌が抗菌薬によって殺されるため
発熱の原因がわからない(発熱の犯人がわからない)
なぜ?犯人が見つからないと困るのか・・・
- 投与した抗菌薬が効果があったかわからない
- 効果がなかった場合、体内細菌(腸管等)の薬剤耐性が進む
- 効果がない抗菌薬が投与された場合の薬剤副作用(肝機能障害等)
🥵発熱の犯人(細菌)を見つけるために以下検査を行う。
必ず抗菌薬を投与前に行いましょう。
血液培養検査2セット 🩸(血液は無菌であり、細菌がいれば陽性となる)
尿定性検査・尿培養検査(尿も無菌であるため、細菌がいれば陽性となる)
胸部X線写真(肺炎がないか確認できる)
少なくとも、血液の中に細菌がいれば、その細菌を殺す抗菌薬を投与できる
尿の中に細菌がいれば、尿道、膀胱、尿管、腎臓の感染症
肺炎があれば肺臓器の感染症
つまり、血液・泌尿器臓器・肺臓器の感染症を見つける材料になる
その臓器にいる細菌を殺せる抗菌薬を適切に投与できる。
まとめ
薬剤耐性菌や抗菌薬適正使用の知識・技術・教育を学ぶ
(まずは知ることから始める)
精神科施設でもAST活動を行なっていく。
精神科感染対策の第1歩
精神科の薬剤耐性保菌者の問題は、解決が難しい。
感染対策ができない母集団が長期に渡り、集団生活・活動を行う。
時間(長期入院) ❌ 接触環境 ❌ 接触頻度 = 保菌者は増加する
今やれることは、薬剤耐性菌の問題を職員に理解させる。
とても困難ではあるが、一人でも耐性菌保菌者を増やさない対策を精神科施設でも取り組んでいきましょう。